【インタビュー】「工学博士が提案するメガネと眼鏡士のあり方」
せっかくメガネを購入したのに「見づらい、疲れる」といった経験はありませんか。メガネはよく見え、さらに使用し続けても疲れず快適であることが肝心。メガネの善し悪しは、レンズやフレーム選び、装着感の調整などをする眼鏡士の技術や知識に大いに左右されるのです。そこで確かなメガネを提供するために、(公社)日本眼鏡技術者協会が一定の知識や技術を有する眼鏡技術者のみに許可しているのが「認定眼鏡士」の資格です。
今回は、応用光学がご専門の早稲田大学名誉教授・大頭仁氏に、メガネとは何か、メガネの製作技術はどうあるべきか等についてお伺いしました。(インタビュアーは、(公社)日本眼鏡技術者協会会長・津田節哉です。)
大頭 仁(おおずひとし)氏
早稲田大学教授、大学院長(理工学研究科)を経て、現在、名誉教授。海外での研究・指導も多く、また専門分野からメガネ業界の技術向上に関する論文・活動も多数。
30年以上前、メガネ先進国アメリカを体験。
●大頭先生には、私どもの講習会や懇談会をはじめ、長年にわたり様々な面からご指導いただきありがとうございます。先生のご専門は応用物理生理光学ですが、先生の研究と目やメガネについての関連についてお聞かせください。
●大頭 私の研究テーマは視覚。要するに見るということは、目から入った光情報が神経によって脳に信通されること。脳の問題なんですね.人間は非常に複雑で巧みな視覚機能を持っており、光学・エンジニアリングの立場から、視覚やメガネに関する研究・探求は尽きませんね。現在は、人間の視覚系の仕組みを調べながら、視力測定装置の開発等をやっております。このような研究を始めるきっかけとなったのは、大学院時代にある著名な先生から「基礎研究も大事だが、これからの時代は研究成果を実学(メガネ)に活かさねばならない」というアドバイスがあったからです。当時から英国、アメリカなどでは検眼をし、かつメガネを調製するという資格制度ができあがっていたのです。
私は1969年、今から30年以上も前、米国ワシントン大学の医学部眼科客員教授に招かれたのですが、まあ実に向こうは進んでいた。大学に検眼士やメガネ調整士の専門教育学科が確立しており、非常にレベルが高いんです。日本は遅れてるなと痛感しました。日本も、日進月歩の知識・技術にしっかり対応できる眼鏡士の育成が大切であると思いましたね。
進化するレンズやフレーム、複雑化するメガネ製作。
●最近は、見えればいいとメガネを雑貨感覚で販売する店も多々ありますが・・・。
●大頭 単に見えるだけで、メガネを買うというのはちょっと安易ですね.確かに現在、日本のメガネレンズやフレームなどはどれをとっても世界基準に達しています。しかし、レンズやフレームの単一性能が優れていてもそれだけでは完成されたメガネとはいえません。眼鏡士によって、使う人の使用目的・生活・顔形にあったレンズやフレームが選ばれ、人間工学的に正しく機能するように調製されなければ本当の意味でのメガネとはいえないのです。
●肝心なのは、使う人それぞれの使用目的や生活にあったメガネかどうかですね。
●大頭 そうです。大事な点は、メガネを使ってどのように生活されるのか。それをよく理解しないとメガネは視力補助用具になり得ない。特に最近は、情報化社会で日を酷使する状況になっている。例えば私がメガネ店に入って「年齢は70歳、生活はこうだ、パソコンも使う」といったとき、眼鏡士はしっかりこの条件を理解した上で適切なメガネを提供せねばならないのです。レンズもフレームも非常に高性能化・多様化しているから、眼鏡士はこれらを消化しつくした知識や技術、さらには眼科医との協力なども必要なのです。」
プロフェッショナルとしての「認定眼鏡士」の必要性。
●私ども(公社)日本眼鏡技術者協会は以前から技術者の教育や資格問題について、先生には貴重なご提言をいただいてきました。おかげさまで一昨年、「認定眼鏡士」制度を発足させたのですが、この制度、いかがでしょうか。
●大頭 今回の制度、一般のお客さんにとって、メガネ販売に携わる人がしっかりとした技量を持っている専門家か否かが判別でき、とても意義がありますね。メガネは生活に密着した重要な光学機器ですから・・・。
●上のグラフは主婦連合会さんが調査されたもので、約8割の人がメガネ店に資格制度は必要と答えていますが・・・。
●大頭 あらためて必要性を感じますね。高性能なレンズやフレームが多種多様にありますが、これらはあくまでもモノでありメガネではない。メガネとして最終的に完成させるのは眼鏡士のノウハウなのですからね。
●確かに。お客様に安心して快適なメガネをお作りいただくために、またメガネ技術者の資質向上のために、認定眼眼鏡士制度を全国に確立していきたいと思います。本日は、ありがとうございました。